チョークポイント

地政学用語集

チョークポイントとは通商ルートが集中している狭隘な場所であり、軍事的に保持する価値の高い戦略的要所を指す概念である。一般的に海峡・運河など海上水路を指すことが殆どだが、地峡や峡谷など陸上の要所を指す場合もある。

チョークポイントの重要性

チョークポイントが死活的な重要性を持つのは、海運貿易は陸上輸送・航空輸送と比べて圧倒的なコスト優位性があり、大部分の国家が貿易を海運に依存しているためである。

海運貿易において、その他の海域と比較してチョークポイントは迂回することが難しい。そのため、戦時においてチョークポイントを確保することは、自国の貿易・軍事活動を円滑に行うのみならず、敵国の貿易・軍事活動を効率的に妨害することにつながる。

現代においてはアメリカの海上での圧倒的優位と国際協調によってチョークポイントが脅かされる事態は稀であり、重要性が認識されることは少ない。しかし、例えばアメリカ・イランの対立を巡ってホルムズ海峡の封鎖のリスクとそれによる原油供給の危機や、バブ・エル・マンデブ海峡に近いソマリア沖の海賊問題に現れるように、重要性は未だ低くなっておらず、コンテナ船・タンカーの大型化など海運のさらなる効率化によって、むしろ増しているとも言える。

歴史的にシーパワーの覇権国家は海上のチョークポイントを抑えていた。例えばイギリスはジブラルタル・スエズ運河・マラッカ海峡といったチョークポイントを保持していた。また、アメリカはパナマ運河の開通がシーパワーへの成長の弾みとなった。

代表的な海上水路のチョークポイント

太平洋

  • バシー海峡 台湾とフィリピンの間の海峡で重要航路。第二次世界大戦ではアメリカの潜水艦の狩場になり、多数の日本の貨物船がここで撃沈された
  • パナマ運河 カリブ海と太平洋を繋ぐ閘門式運河。パナマックスサイズという船の規格が存在するほど重要な航路。貨物船の大型化に伴い重要度はやや低下していたが、拡張によって利便性は高くなった。パナマ経済の柱であり、返還後もアメリカが事実上掌握していると言って良い
  • ベーリング海峡 極東ロシアとアラスカの間の太平洋と北極海をつなぐ海峡。冷戦時代は最前線だった。周囲の海は非常に荒れている。冬季に凍結し、海上交易路としての利用は少ないが、地球温暖化で将来的に非常に重要な航路になることが見込まれる
  • マラッカ海峡 インド洋と南シナ海をつなぐ海峡で、世界の貿易量の半分、石油供給の1/3が通過する交通量で世界最大の海峡。日本や中国にとって非常に重要。水深が浅く、岩礁が多いため航行が危険な海域であり、満載タンカーは通れない。また、インドネシア側からの海賊も多い。海運が集中する条件を活かしてシンガポール、タンジュンペラバス等の大規模な港が位置している。タイ南部のクラ地峡に運河を作りこれを迂回する計画がある
  • スンダ・ロンボク海峡 インドネシアのマラッカ海峡の迂回路で、オーストラリア・南アフリカと日本を結ぶ水上航路。水深が深いため、復路のタンカーはこちらを通る。海賊はマラッカ海峡と同じく多発している
  • 宗谷・対馬・津軽海峡 日本海と太平洋をつなぐ海峡で、日本が制海権を握っている。ここを封鎖されたらロシアのウラジオストックの極東艦隊は行動不能になるので、ロシアにとって重要なチョークポイントである。また、津軽海峡は釜山・上海へのコンテナ船の定期航路にもなっている
  • 宮古海峡 沖縄本島と宮古島の間の海峡で、広く水深があるため、中国人民解放軍海軍の太平洋進出経路となっている
  • マゼラン海峡 太平洋と大西洋をつなぐ南米大陸南端の海峡で、大変航行が難しい難所だが、南の荒れ狂うドレーク海峡と比べて波は穏やかで距離も短縮できるのでコンテナ船はこちらを通る

インド洋

  • ホルムズ海峡 ペルシャ湾とアラビア海を繋ぐ海峡で、オマーン領であるが国際海峡。年間3400隻のタンカーが通り、日本への原油の八割が通る湾岸諸国の石油の重要な搬出路である。イランは長期的に封鎖する能力を有していないが、短期の封鎖・タンカー攻撃でも大きな影響を与えうる海峡である。
  • スエズ運河 言わずと知れた地中海と紅海を結ぶ運河。世界の海上貿易量の7%が通るキャパシティ・交通量併せて非常に重要なチョークポイント
  • バフ・エル・マンデブ海峡 紅海のイエメンとジブチ・エリトリア付近の海峡。周囲は海賊が多く、情勢が不安定。過去の中東戦争でエジプトに封鎖されたことがある

地中海・大西洋

  • ダーダネルス・ボスポラス海峡 黒海とマルマラ海・地中海を結ぶ非常に狭い海峡。完全にトルコの掌握下にあり、ボスポラス海峡はイスタンブールの中心を貫く。黒海ロシア艦隊にとって死活問題にもなりうるチョークポイント
  • ジブラルタル海峡 地中海と大西洋を結ぶ狭い海峡。潮流が強く、水深は深い。英領ジブラルタルが位置し、ヨーロッパ・北アフリカ諸国にとって重要な戦略的要所である。
  • デンマーク海峡 バルト海が唯一外海とつながる海峡。ロシアのバルト海艦隊のチョークポイント、海上原油輸出ルートとして重要
  • フロリダ海峡 カリブ海と大西洋をつなぐ海峡。アメリカが完全に掌握している
  • イギリス海峡 イギリスとヨーロッパ大陸を隔てる海峡で、東部最狭部はドーバー海峡と呼ばれる。イギリスが完全に制海権を掌握している
  • GIUKギャップ グリーンランド(G)、アイスランド(I)、イギリス(UK)の間の海域で、完全にイギリス海軍が掌握しているイギリス海峡を迂回してバルト海・北海及び北極海の海軍が大西洋に出る際に必ず通る海域である。ゆえに、ジブラルタル海峡も合わせてヨーロッパでイギリス海軍に封鎖されずに大西洋に出れる国はフランス、ポルトガルとスペインのみである。第二次世界大戦ではドイツとイギリスの戦いの場となり、冷戦時代はソ連北方艦隊の原子力潜水艦を阻止する海域として非常に重要だった

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