中国の漢民族による国民国家化

中華人民共和国

中国(中華人民共和国)は建国後長らく、国家の正当性を「共産主義というイデオロギーの下平等な中華民族の国」という論理で担保して来たが、それが「漢民族による、漢民族のための国」に変容しており、ウイグル人への弾圧、モンゴル語の使用禁止などは国家の拠り所の変容が根本にあるのではないかと推測している。

元々の中国(具体的には習近平体制以前)の正当性主張のレトリックは詳しく言えばこうだ: 「詳しく分けると漢族、ウイグル族、チベット族、満州族等々色々な民族がいるが、大きく言えば我々は黄河文明から続く中国文明に影響されてきた中華民族なのであり、今我々は共産主義・社会主義・毛沢東主義をベースに民族間・国民間で平等で豊かな国を共に作ろうとしている仲間なのだ」

言わずもがなこのレトリックは諸民族の独立運動を防ぎ、中華民国(台湾)の介入の口実も与えなくする主張である。

多様な民族が共産主義の下で超大国を形成している「ソ連」からも随分影響を受けていそうな正当性のレトリックだが、ソ連ほどは上手くは行かなかった。石油を産出するタタールスタン、豊かな農地を持つウクライナなど少数民族が豊かな地域に分布していて、多民族の共産主義の下での糾合の重要性が高かったソ連と違って少数民族は貧しい西部・山間部に主に居住し、漢民族の人口に占める割合も大きすぎたからだ。

そして、改革・開放によっていよいよ正当性主張のレトリックの後半部分、「共産主義ベースの平等」がごっそり抜け落ちてしまった。スペイン・カタルーニャ州の根強い独立運動、ギリギリで踏み止まっているカナダ・ケベック州の独立問題などを見るに、どんなに国内政治・経済で尊重されていても文化的に異なる地域では独立の声は挙がるものだ。

そうなったら最後、少数民族の同化を現在からでも急いで進め、漢民族による国民国家に転換するしかない、という結論に中国政府は至ったのではないか。

文化的・ライフスタイル的な優越性は蓄積が浅いので、戦前日本のような周辺部の自発的な同化はすぐには望めない。故にウイグル人への弾圧、モンゴル語の使用禁止など、強権的な同化が習近平による独裁体制も相俟って急ピッチで進行しているのではないかと考える。

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