回廊地帯

地政学用語集

地政学において、回廊地帯(回廊)とは領土から細長く伸びた地域を指す。主に海、河川、飛び地や隣国へのアクセスのための交通路として機能していることが多く、地政学的・経済的に重要な地域である。

回廊の長さ・は幅広く、規模が大きいものとしてはナミビアの北東に位置するカプリビ回廊、小規模なものだと日本国内の新潟・福島県境の飯豊山山頂につながる登山道(日本経済新聞)も広義の回廊とみなすことができる。

類似の地形として、細長く伸びては無いが交通路として重要な国境であるギャップ、狭くて重要な海上交通路であるチョークポイントが挙げられる。

回廊地帯の重要性 – ポーランド回廊の例

交通路としての重要性として、回廊地帯が紛争の焦点になった例として第二次世界大戦直前のポーランド回廊(ダンツィヒ)がある。バルト海につながるこの地域は第一次世界大戦後にポーランドに割譲され、ポーランドにとっては総貿易の6割が通過する死活的に重要な回廊だった一方、ケーニヒスベルク(現在のカリーニングラード)など東プロイセンへの交通路を断たれたドイツは海上フェリーの運行など試行錯誤したが交通上のボトルネックとなり、ナチスのポーランド侵攻の目標の一つとなった。

代表的な回廊地帯の一覧

アジア

  • 河西回廊 特に漢の時代において西域に抜けるシルクロードの交通路として重要な地帯だった。現在でこそ中国の国内に位置するが、甘粛省の細長い形状にその痕跡が残っている
  • ワハーン回廊 アフガニスタンと中国をつなぐアフガニスタン領の細長い回廊で、北をタジキスタン、南をパキスタンに挟まれている。シルクロードの一つとして交通路だった一方で、非常に険しい地形によって現在ではほぼ外界から閉ざされており、アフガニスタンと中国を跨ぐ道路も存在しない
  • シリグリ回廊 インド本土とインド北東部の七州(セブンシスターズ)を結び、ネパール・バングラデシュとブータンに挟まれた回廊地帯。セブンシスターズは海に接していないため、インドの国内移動において重要な交通路になっている
  • ラチン回廊 アルメニア本土とアゼルバイジャンと係争中のアルメニア人の多く住むナゴルノ・カラバフ(アルツァフ共和国)を結ぶ回廊。2020年のナゴルノ・カラバフ戦争ではこの回廊地帯が焦点となり、シュシャのアゼルバイジャン軍による奪取がラチン回廊を通るアルメニアの補給路を脅かし、アルメニアの敗北の決定打となった(英語記事

ヨーロッパ・アフリカ

  • ブルチコ回廊 ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦内のセルビア人政権であるスルプスカ共和国の東西地域を結ぶ回廊地帯。ボスニア・ヘルツェゴビナ戦争において戦闘「Operation Corridor 92」でセルビア側が勝利したことでスルプスカ共和国側が占領し、その後の和平でも帰属が確定した。現在ではスルプスカ共和国とボスニア・ヘルツェゴビナの共同帰属地域となっている
  • コンゴ回廊 コンゴ民主共和国の大西洋への出口であり、コンゴ川の河口地帯の細長い回廊地帯。大西洋から直接外洋船がアクセスできる、中部アフリカ有数の港湾都市、「マタディ」が回廊内に存在する
  • カプリビ回廊 ナミビア北東部の回廊地帯で、450kmもの延長を誇る。元々ドイツの植民地であったナミビアとタンガニーカ(現在のザンジバルを除くタンザニア)をつなぐため、インド洋へ注ぐザンベジ川までの交通路を確保する目的でイギリスとドイツが協議して確定された。現在ではザンベジ川の水位の変化が激しく急流であるため交通路としては機能していないものの、自然動物が多数生息しており観光資源の開発が期待されている

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